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レース注目のレポート

アイアンマン・メリーランド大会に出場してきました 〜レポート〜

■年に一度のチャレンジ!

 

ストラーダバイシクルズ代表の井上です。
年に一度のチャレンジ、トライアスロンの代名詞である「アイアンマン」に今年も出場してきました。

アイアンマンレースとはスイム3.8km、バイク180km、ラン42.195kmで競うトライアスロンの世界でもっとも有名なシリーズ。70年代にハワイで生まれその面白さから世界に広がっていった世界で最も有名なシリーズレースです。10月に行われるハワイのコナでのチャンピオンシップレースはその頂点で、世界のトップアスリートとエイジランキングでクオリファイした選手のみが参加できる、アイアンマンシリーズのシンボルレースとして世界中のアスリートがチャレンジしています。

私が初めてアイアンマンレースに参加したのは1986年のびわ湖大会で、初トライアスロンが初アイアンマンでした。当時は今のような機材やサプリメントが発達しておらず、バイクの飛ばし過ぎと重いギアを踏みすぎてフラフラになり、這々の体でゴールにたどり着いたのを覚えています。18歳で最年少選手だったので、前日ブリーフィングで、あのレジェンド、デイブ・スコットの隣に並ばされてインタビューされたのもとてもいい思い出です。

90年までトライアスロンを続けておりましたが、社会人になり自転車レースに興味を持つようになったことでトライアスロンから遠ざかっていきました。しかし様々な理由から7年前に再度チャレンジすることに。一つは業務拡大と共に衰えていく自分の身体に愕然とし「これではいけない!」と危機感を覚え原点回帰すべきと思ったこと、もう一つは今後もライフワークとして続けていける運動を持ちたかったこと、そして何より一番最底辺のところでもなんとかゴールできるというところをお客様にご覧いただき、一人でも多くの方にトライアスロンの世界に入っていただけたらという思いからです。

 

■アイアンマン・メリーランド

 

フルディスタンスとしては4回目のアイアンマンレース。今年はアメリカ西海岸にあるメリーランド州ケンブリッジ市で行われた「アイアンマン・メリーランド」を選びました。
初めて訪れたメリーランド州ケンブリッジ市はニューヨークシティーから400kmほどのところにあるこじんまりとした静かな漁業の町、実際に到着してみると週末にビッグイベントが開催されるような雰囲気は皆目ゼロ。木曜日ということもありまだ参加者もまばらで、これで本当にレース開催されるのか?としばし不安になるほどでした。ブリーフィングやエキスポもこじんまりしていてどこか地方大会の様相・・・。

アイアンマンのシンボルである「エム・ドット」の前で記念撮影。

ところがそれを吹き飛ばすような大会スタッフやボランティアのお声がけにビックリ。「パケットはこっちでピックアップだよ!ついておいで。」「あら!日本から来たのね!ようこそメリーランドへ!ここはカニが美味しいのよ!」「TシャツはLサイズ?あなたにはMサイズかな、いやLサイズかな?ねえどう思う?(他のボランティアに聞いている)」「レッドブルはもらったか?おっ、内緒で2本入れとくから」「リストバンドは着けた?このぐらいでキツくない?やっぱり付け直すわ!ほら!今度はきつくないでしょ!ところでここはカニが名物なのよ。(さっき聞いたで)」・・・。ボランティアの皆さん程よくお年を召した方が多いのですが、これでもか!というぐらいの歓迎ぶり。そしてカニの勧めっぷり。

地元の子供達からの歓迎。レース当日も沿道で声援を送ってくれていました

そのあとは地元の子供達とのハイタッチ。スクールバスから降りて並びだした小学生たちが我先にと元気な声で叫びながら手を叩いてくれるのです。駐車場係のボランティアは「駐車場がいっぱいの時は路上でいい場所があるよ!」と裏情報をくれたり、路地を歩いているとレース当日でもないのにお婆さんが「アイアンマンに出るのね!頑張って!」と声をかけてくれたり、いろいろなレースやイベントに出て来ましたが、これほどまでに地元感とホスピタリティーを感じたイベントはあまりないと思います。声をかけられるたびに緊張がほぐれ笑みがこぼれ、既にこのレースが大好きになってしまっている自分がいました。

 

■再びの身体トラブル

 

レース出場をエントリーした翌月、身体にトラブルが発生しました。ある日、右手と肩に鈍痛がするようになり手をあげるのも億劫になりました。2ヶ月以上それが続き治療を続けて来ましたが、不思議なことにある日を境に痛みが左手にスイッチしてしまいました。それも今度は痛みとともに親指と人差し指が痺れを伴うように。慌てて病院で検査をしてもらったのですが、頚椎にヘルニアと損傷があるようでしばらく要加療の診断。2ヶ月間練習がままならないままレースを迎えることになりました。昨年もアイアンマン・ニースに出場する3週間前にハワイ・ホノルルで自動車事故に遭い救急車で運ばれ全身打撲11ヶ所の重傷の憂き目にあいましたが、今年も身体トラブルが発生するとは・・・・。運がないのか不摂生がたたったのか。でもなんとか出場できるぐらいまで急速に回復したのは不幸中の幸いでした。

身体的負担を考えてエアロバイクを諦めノーマルロードバイクで出場

ドクターから出場の許可はもらったものの背中から頚部にかけての負担を減らせとの指示があり、エアロバイクでの出場を諦めノーマルロードをチョイスしました。この日に向けて新しいバイクを組み上げていたので残念ですが、実際にエアロポジションを取ってみると左手が途端に痺れ出し、エクステンションバーを持つ手の感覚がなくなってしまい走行できなくなってしまうので諦めざるを得ませんでした。ノーマルロードにもエクステンションバーを取り付けていますが、これはトライアスロン感を出すためと、渡米中にうまいぐらいに痛みが緩和できれば使用してみようと付けてみたものです。

スペシャルエキップメント!消炎鎮痛剤の「ラブ」。ハンドルバッグにはドクターから処方された薬と湿布が入る

しかしニューヨークからずっと痛みが緩和はされずで、こうなれば常にマッサージをしながら走ることとし、日本から持って来た消炎鎮痛剤の「ラブ」をハンドルにくくりつけ走行することにしました。このクリームは結構相性が良くかなり痛みが緩和されるので日本から2本持参してきたのです。ハンドルに取り付けていると、大会スタッフから「こりゃいいね!」と写真を撮られてしまいました。どこかのインスタグラムで上がっているかもしれません(笑)
しかし実際のところはレース完走できるか全く自信がありません。レース距離に対してはなんとか完走できる自信はありました。しかし前回と違い今回は肩・腕・指に痛みと痺れがあるのでスイムに対して大きな不安がありました。
若い頃プールのコーチをしていた時にシングルハンドで2kmほど泳いだ経験があるので、シングルハンドで行けるところまで行って痛みが出たらリタイアするつもりで出場を決意しました。

 

■いよいよスタート!

 

いよいよレース当日。最終チェックインを済ませウォームアップ。参加人数は1500名程度でアイアンマンとしては小規模です(後で聞いたのですが、低湿地のコースのため、ここ2年の大会で路面が水没する事態が起こっておりそれで敬遠されたようです)。スイムスタートは自己申告制のウェイブスタート。私は最終組の一つ前のグループに入りスイムスタートを待ちます。そしていよいよスタート!大きな川の中でスクエアなコースを2周します。ウェイブスタートのため大きな混乱に巻き込まれることもなくスタートできました。シングルハンドで必死に集団について行きます。ブイ2つ目を曲がると沖合に出るのでそこまでは頑張ってついていくつもりでした。しかし沖合は急に流れが出てシングルハンドでは姿勢がうまく保てない。ここでやむなく両手回しにスイッチ。処方された薬のおかげ、もしくは興奮しているためかほとんど痛みを感じません。「これはイケる!」と思い両手回しで頑張ってみましたが、1周を終えたところでさすがに肩周りに違和感を感じたのでシングルハンドに再度切り替え。しかし両手の後の片手だと急に徒労感を覚えてしまい「もういいや・・・」という気持ちになってしまいました。次第に周りから遅れ出しさらに嫌気がさしてきました。気がつけば周りの人もまばら。なんとかコーナーブイを睨め付け航路をブレないように進んではいますが次第に疲労してきて投げやりになってしまいました。2つ目のブイが非常に遠く感じられました。なんとかたどり着いてブイをターンした途端でした。「流れが変わっている!」なんだか2周目の沖合はフォローの流れがあるように感じ、試しに両手回しにしてみると不思議と痛みも感じないではないですか!そうなると俄然やる気が湧いてきて最後のスイムフィニッシュまで一気に泳いでしまいました。

なんとかスイムアップ!

スイムのフィニッシュゲートを越えるといつものレースより非常に疲労していることがわかりました。とにかく体力を使っている・・・当たり前ですね。しかし一番心配だったスイムを終えたことで急に安堵感が出ました。思わずトランジットエリアのボランティア相手にに軽く冗談を言ってみたり・・・。そしてバイクのバッグを受け取り更衣室に入ってみると、なんと異様な風景が・・・・。最終組あたりでスタートしたためか、更衣室には私と同年代のおじさん連中ばかり。みんなバイクに向けて着替えているのですが、なんだかアスリートっぽくない人が多く(自分も含めてですが)それぞれ談笑していたり、ワセリンを塗りっこしていたり、ヘルメットを先にかぶってあとは全裸のおじさんがいたり(爆笑)、手が届かないのかボランティアに服を脱がしてもらっていたりと、シリアス感がまるでゼロ!思わず笑いが出てしまいました。なんだかどこかの健康マラソンみたいな雰囲気で笑いが起きていて、それがさらに緊張をほぐしてくれたので笑顔でバイクに移ることができました。

 

1周目はまずまずのペースで追い抜きをかける

 

バイクは唯一飛ばせるパートなのですが、今回は痛みもあるので慎重にいくことにしました。コースは湿地帯を走る完全フラットコース。80kmのループを2周するためコースコンディションを確認しながら走ることができます。自分にとっては最も得意なコース設定。出場したアイアンマンの中で初めてオールフラットのコースです。1周目は左手の様子を見ながら70%程度の強度で走行。相変わらずエアロポジションは取れず、ブラケットを持って走ることにしました。まあロードバイクならそれが当たり前なので充分です。
前半は向かい風もあり30km/h平均で走行することにしました。それでも面白いように他の選手を抜いていけます。追い風のセクションに入ると簡単に40km/hを超えて行きます。

カメラマンが目に入るとエアロポジションに

途中でステムに付けたラブを塗り込みながら程よく2周目に突入。しかし2周目は予想以上の向かい風で所々突風が吹いています。おまけにラブの塗りすぎでブレーキブラケットのゴムがヌルヌルしてきて力を入れられない、いや危ないレベルに。仕方なくアームパッドを握った状態で走ることにしました。途端にスピードが落ち抵抗が増します。なんとかブラケットのヌルヌルを解消すべくボトルの水をかけたりしましたが効果が出ず。「そうだ!ベトベトにしよう!」ということでサプリメントのゼリーをブラケットに塗って見たところ、さらに状況は悪化・・・・。一体なにをやってるんだろう・・・俺は・・・われながらアホやなと・・・。結局アームパッドを握って前傾姿勢をとるという前代未聞のフォームで向かい風の中を走行。それでも前方のカメラマンが目に入った途端、エアロポジションに切り替え、写真写りを良くしていました。

2周目も終わりトランジットに向けた路面を走っていると、今まで以上に突風が吹き荒れてきました。最後の最後にコレなので時速20km/hぐらいまでダウン。横風も酷くディープリムからは「ヒュウうううううう!」という異様な風切り音がしています。それでも自慢の体重(85kg)をフル活用しなんとかバイクを安定させながらバイクフィニッシュ。後で聞いてみると相当にバイクでバテた人が多かったようです。私は自慢の体重のおかげでそれほど体力を消費することなく、代わりにプッシュもすることなく完走を考えてバイクパートを終えました。

 

■疲労が蓄積・・・ランパート

 

いよいよランパート。往復コースを2周半するレイアウトで、フルマラソンの距離42.195kmを走ります。ランが最も苦手な私は「遅くても止まらない・歩かない」走法を取っています。今回もそうすべく自制心を持って走ったのですが、いつもより相当な疲労感がありました。世界最高の獲得標高のレース、アイアンマン・ニース。2番目のアイアンマン・洞爺湖でもランでここまで疲労感を感じたことはないのですが、やはり怪我による練習不足とシングルハンドのスイムで消耗していたのでしょう。なんとか35km地点までは止まらずにカタツムリ走法で行きましたが、エイドステーションを出るときに足が動かなくなり、歩き始めてしまいました。こうなるともう途切れ途切れに歩かざるを得なくなりました。

遅くても歩かない!つもりが・・・

とうに日没も過ぎてエイドステーション以外は真っ暗な路地をトボトボと歩くのですが、こうなるとなんだかネガティブなイメージが頭の中に浮かんでくるものなのです。怪我のことや仕事での悩みが思い出されたりしてなんだかメンタルも暗くなってしまいました。おまけに疲労の蓄積からか手がむくみだしドラえもんみたいな手になってしまいました。(一番下の写真にも写っていますね)

 

■最高の声援を浴びてフィニッシュ!

 

しかしゴール前5kmあたりから様子が変わってきました。どんどんと人が集まってきているのです。残っているのはトップ選手でもないアベレージや私みたいにアベレージ以下の選手ばかりです。役目を終えたボランティアの人や地元の人たちがたくさんゴール付近に集まってきて声援をくれるようになり、しかもみんなまとまって応援してくれるので、最後の3kmでは聞こえないぐらいまでなってきました。「 There You go! 」「Good job! Good job!」。とにかくみんな必死に応援してくれるのです。老若男女問わず。アジア人の出場が相当少なかったこともあるでしょうし(日本人は3名、本土から来ているのはおそらく私一人)、珍しいカラーのトライウェアだったこともあるでしょう。みんな「STRADA!STRADA !」と口ぐちに応援してくれました。(このジャージ着てたら絶対目立ちますよ!みなさんもぜひ!)それがゴールが近づくにつれどんどん増えてきて、街の繁華街に入った時は自分がまるでトップ選手になったような気分になるぐらい。みんな拍手をしたり拳を突き上げたり、バーからビールジョッキ片手に飛び出してきて僕に飲ませようとしたり・・・。昨年のニース大会もコース全体で途切れることなく声援をもらいましたが、今回はゴールに向けて声援が増え、最後は溢れるぐらいになっていきました。ものすごく感動しました。これぞアイアンマン!

遅くても自分にチャレンジしている人には惜しみない声援を送る。「恥ずかしいことなど何もない、だってアイアンマンなんだから」どこかで読んだその言葉を思い出しながら最後のラスト1kmは全開走行で走り、フィニッシュゲートのあるスタジアムを迎えました。

感動のゴール!

最後はスタジアムでは応援してくれるみんなとハイタッチしながらフィニッシュ。

“Hisashi Inoue! from……….. JAPAN!

“You are an IRONMAN!”

MCの絶叫を聞きつつゴールラインを超えました。

なんとか今回も完走することができました。
体力的にも不完全燃焼ではありましたが、みなさんの応援と繁忙期にもかかわらず送り出してくれたスタッフのためにも必ず完走しようと思いました。

本当にありがとうございました。

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