STRADABICYCLES -ストラーダバイシクルズ-

最上級グランツーリスモカー、PINARELLO DOGMA F10

BY TOMOTAKA YAMAMOTO

「ピナレロ」と聞いて、皆さんがイメージされる事って何でしょうか?
「美しさ」、「力強さ」、「優雅さ」、「高級さ」・・・

それら「ピナレロ」をイメージするすべての要素を含む旗艦モデル、「DOGMA」が新たに進化して登場しました。その名は「PINARELLO DOGMA F10」

先代モデルとなる「DOGMA F8」はツールドフランスでも勝利を収めるなど多くの実績を残し、プロ選手をはじめとするアスリートライダーから絶大な支持を受け、その機能美に溢れる美しいバイクは多くのホビーライダーを虜にしました。
そんな大成功を収めたF8を、より進化させたモデルがこの「F10」です。

 

前評判で聞いていたのは、「空力のブラッシュアップ」
タイムトライアルバイクの「BOLIDE」のテクノロジーを踏襲し、従来モデルと比較すると約20%ものエアロダイナミクス特性が向上したとの事です。

実際にバイクのフォルムを見てみると、一か所として単純な直線を描く箇所がありません。
ピナレロらしい左右非対称の「アシンメトリック」を進化させたフレームワークは、F10においても独特の存在感を放ちます。

 

そしてスタイリッシュさをさらに突き詰めたのがこのDi2の電源ポート。写真はワイヤータイプ用なので蓋になっていますが、ここに直差し込みできるポートが備わるのです。カーボンフレームの時代になって造形に自由度がかなり出るとは言え、こうしたパーツを作るにはかなりの金型成形費用がかかるはず。美的にも手を抜かない、いやむしろそれが特徴となっている感じですね。イタリアンの真骨頂。

 

そしてイタリアンバイクといえばデザイン。その中でも屈指のデザインセンスを誇るピナレロですからF10ではさらに美しいラインナップが揃っています。(ただし未発売です)

 

まずはページトップのマットブラック+レッドのみのラインナップですが、美しいドットのデカールが塗りこまれていたりマットとグロスのカラーの切り替え部も妙な段差はなく非常に美しく仕上げてあります。

DOGMAシリーズはイタリアのトレヴィーゾの本工場で一本ずつ手塗りでペイントされるのです。職人が1本ずつ心を込めて仕上げたF10はまさにイタリアの至宝。

ピナレロがLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ ヴィトン)に買収されたことが一躍有名になりましたが頷ける話です。と言いながら普段はモエ、ヘネシーじゃなくて普通のお酒しか買えませんが・・・(涙)

 

個人的には空力面での進化よりも気になっていたのが「F8と比べると7.1%もの剛性アップ」という点です。

F8は非常にカチッとした乗り味で「踏めば踏むほど前に進む」という感覚が強く、スパルタンな乗り味が特徴だったように思います。
そんなF8をより「高剛性」にしたF10・・・

それって「良く進むけど、乗り心地が悪い」んじゃないのだろうか・・・
昔と比べると確実に力が落ちている自分の脚力でF10の「速さ」を実感できるのだろうか・・・

 

そんな不安を持ちつつ、ヒルクライムコースを中心にじっくりとライドしてみました。

 


登り初め、いきなり現れた急斜面を一気にダンシングで踏み込んだ時、爆発的な加速が実感できました。「おお!進むッ!」

前述の通り、BB周りについてはかなり高い剛性を実現しているらしく、踏み込んだ体重がそのままフレームに伝わり、推進力に変換されるようなイメージです。
特筆すべきはヘッド回りのカッチリした剛性感。ただやみくもに「硬い」のではなく、ダンシングした際の上半身をしっかり支え、真っ直ぐに進もうと補正してくれます。

下半身と上半身のすべてのパワーをフレームが受け止め、それを全て進む力に変換してくれます。「これは、もう、快感・・・!」

 

しばらくダンシングを続けて疲れてしまったので、シッティングで軽いギアへ。
ダンシング時は全体重を推進力に変えてくれましたが、シッティング時はペダリングパワーがそのままチェーンステーへつながる感覚。
回せば回すほど、フレームが「前へ、前へ、前へ」と進んでくれる感じです。
昔に比べると脚力が落ちてしまった私ですが、そんな脚力を余すところなく伝達してくれる、伸びやかなフィーリングが心地よい。ペダリングを止めたく無くなります。

 

そして下り。
ビシッ!とラインがトレースできます。「おおお!安定してる!面白いっ!」

ダンシング時に感じたヘッド回りのカッチリ感は、高速コーナリングでは安定感の「塊」のよう。
「アンダーステアーでもオーバーステアーでもなく、思いっきりニュートラル」なハンドリングは、下り坂が苦手な僕でも「もっと、もっと速く!」と思えるほどの安定感に満ちていました。
これだけ下りが楽しみになるバイクも珍しい・・・「下りたいから登る」そんな今までにない感覚が芽生えました。

 

そして、何よりも驚きだったのが「乗り心地の良さ」でした。もう、拍子抜けするほどの心地よさ。びっくりするくらい優しいフィーリングです。
前述の通り、「高剛性を実現」したF10ですが、「高剛性=乗り心地が悪い」という不安は一蹴されました。とにかく、驚くほどに乗り心地が良いんです。

後で聞いた所、カーボンのレイアップを見直す事によって、乗り心地を向上させつつ、高い剛性を実現したとの事。
確かによくよくフレームを見てみると、至るところでF8と比べて形状が変わっているのが見て取れました。うーん、深いですね・・・

 


じっくりと走り込んでみて、感じた事。
F10とは、あらゆる面において最高レベルまでに到達した、上質なグランツーリスモでは無いのか、と。

ロングライドをじっくりとマイペースで走り切る乗り心地の良さ、そして時には牙をむくような鋭い走りをみせる高い運動性能。そして、所有欲を満たすピナレロらしい美しさを纏うフレームのオーラ。
「快適な居住性を持ちつつ、高速での長距離走行に適する=グランツーリスモ」としてこれ以上の選択肢は無いと感じるF10。

面白いのは、F8が来年モデルでもラインナップに存在し続けると言う事です。
つまり、「スパルタンに”走り”の醍醐味を味わいたいライダー=F8」、「ロングライドやヒルクライムなどあらゆるシチュエーションで”上質”を感じたいライダー=F10」というように趣味趣向に合わせたバイクセレクションができるのもDOGMAの面白いところですね。

昔は目を三角にして「速く!強く!勝つ!」だった私ですが・・・もう40歳を越え、そろそろ「ゆったりと、けれども昔の熱い走りも時には感じたい。」
そんな我儘に応えてくれるバイク、そんな相棒に出会えた気がしました。

 

LINEで送る
メールで送る
TOMOTAKA YAMAMOTO
山本 朋貴

IT企業での経験を活かし、自転車業界では類を見ない、独自の情報管理システムを構築している。
また社員教育も担当し若手スタッフの研修を手がけている。
イベントの得意分野は自身の経験を活かしたパワーメーター講習。
長年マウンテンバイクのレースを走ってきたが、昨年からトライアスロンに挑戦。
オリンピックディスタンスやアイアンマン70.3のレースを中心に出場する。
2011、2012年全日本マウンテンバイククロスカントリー選手権・マスタークラスチャンピオン。